看護師の業務としての「診療の補助行為」についての考察

民事責任

  1. 債務不履行責任(民法第415条)
    診療契約に基づく善管注意義務違反→設置主体者・開設者
  2. 不法行為責任
    (ア)不法行為責任(民法第709条)
    医療行為者の過失(注意義務違反)→個人(臨床検査技師)
    (イ)使用者責任(民法第715条)
    管理・監督注意義務違反→病院、院長、検査部長など
    (ウ)共同不法行為責任(民法第719条)
    チーム医療等の注意義務違反→故意過失のある関与者全員

注意義務の基準:『人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者は、その業務の性質に照らし、危険防止のため実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるが、その注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である』最判(3小)昭57.3.30

民法第415条【債務不履行による損害賠償】
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
民法第709条【不法行為による損害賠償】
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法第715条【使用者等の責任】
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前2項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
民法第719条【共同不法行為者の責任】
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2 行為者を教唆した者及び封助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

民事責任参考図

※は民法第715条3項の求償権の行使に抜当します。

刑事責任…『業務上過失致死傷罪』

刑法第211条1項

業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は・5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

解説

刑事責任とは、加害者の自由・財産等に一定の害悪を与えることにより、応報を科すと共に、犯罪予防や再犯防止を図るなど、公法的見地からの責任です。民事責任が私人間の問題であるのに対し、刑事責任は「国家」対「個人」の関係です。民事責任と刑事責任とは目的が異なりますので、民事責任を果たしたからといって刑事責任を免れることはできません。

患者の診療を目的とするものであっても、不適切な手技により、死亡重度後遺障害その他の傷害を発生させた場合には、上記のとおり業務上過失致死傷として刑事責任を問われることになります。「懲役」「禁錮」は自由刑といわれるもので、刑事施設に収容される点は共通していますが、懲役の場合には・施設内で「所定の作業」が義務づけられています○また、「懲役」は破廉恥罪に対する刑罰と考えられており、医療事故の場合に懲役刑が選択されることは極めて稀です。一方、「罰金」は財産刑といわれるもので、裁判所の定めた金額を納付することにより刑事責任を果たしたことになります。そして、医療従事者が、当初より過失を認めている場合には、略式手続という簡略な手続により刑事事件が終了することもあります。

医療行為は、身体に対する侵襲を伴い、合併症や副作用により死亡や重度障害などの結果が発生するリスクを内在していますので、医療従事者にはやや酷な印象もありますが、法は医療従事者を特別扱いしてはいません。

また、院内死亡の場合であっても、不適切な医療行為や、医療行為に起因する予期しない死亡等の場合には異状死体と評価され、死体検案をした医師に、所轄警察に異状死の届出が義務づけられています(医師法21条)。そのため・最近では毎年150〜200件程の異状死の届出がなされています。これは「捜査の端緒」と扱われ警察による医療従事者の取調べが始まります。多くは、取調べの過程で不適切な医療がないことが明らかになったり、検察官の判断で起訴猶予となり、現実に刑事処分が科されることは少数といえます。しかし、捜査機関による取調べ自体が、医療従事者にとって極めて過酷なものであることは否めません。また、カルテの改意や口裏合わせ等が疑われる場合には、逮捕・勾留されることもあります。結果的に不起訴になったり、無罪が得られたとても、その代償は少なくありません。

また検察庁で起訴された場合、公務員に限らず、民間企業でも「起訴休職」の制度を採用している企業は殆どありません。警察・検察の捜査を経て、公判請求された時点で、休職扱いとなり、給与は支給されません。ですので、経済的な余裕のない方は事実上退職して、他の仕事を探さねばならない状況に追い込まれてしまいます。無罪になったとしても、このような事実上の不利益を回復することはできません。このように、刑事責任は極めて重いものですが、事故発生後の対応を適切に行うことにより、刑事責任を免れることも可能です。万が一の場合には、専門家に相談することをお勧めします。

※(2),(3)の段階で逮捕・勾留される可能性があります。

行政処分…免許取消・業務停止処分

保健師助産師看護師法

第14集
保健師、助産師若しくは看護師が第9条各号のいずれかに該当するに至ったとき、又は保健師、助産師若しくは看護師としての品位を損するような行為のあっ狩ときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消し、又は期間を定めてその業務の停止を命ずることができる。
第9条
次の各号のいずれかに該当する者には、前2条の規定による免許(以下「免許」という。)を与えないことがある。
1.罰金以上の刑に処せられた者
2.前号に該当する者を除くほか、保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があった者
3.心身の障害により保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
4.麻薬、大麻又はあへんの中毒者

医療訴訟の特異性

  • 医療訴訟は、10年で2倍以上に増加。
  • 医療訴訟の半数は裁判上和解で決着。
  • 敗訴率は低いが、有償解決率は高い。(但し、敗訴率、有償解決率も年々増加傾向に有る。)
  • 賠償額の高額化。
  • 審理期間の短縮=裁判の迅速化促進
  • 「裁判の迅速化」は歓迎されるが、『租審租判』になっていないか吟味が必要。

急増する医療訴訟

医療訴訟の新受件数は僅か10年で倍以上に

  1997年度 2007年度
新受件数 597件 944件

  • 最高裁ホームページから抜粋

医事紛争の予防対策

  1. 医療を取り巻く状況の変化を知り医療従事者個々人が危機管理意識を!
    • ケアレスミスの多発→医療界に対する不信感とマスコミの責任追及
    • 世論の動向と裁判所の姿勢→相次ぐ最高裁の逆転有責判決
    • 賠償金の高騰→高額請求を認容する判決→賠償倒産の危機
    • リスクマネジメントの導入→医療機関の生き残り策
  2. 医療事故発生要因を素早く把握し事故を事前に防止
    • ケアレスミスの先例→病院共通のリスク→同じ愚行を繰り返さない感性と智恵!
    • 「ヒヤリ・ハット事例」は自院での事故予防標識・潜在リスク認識→安全管理
  3. 患者主体の医療と信頼関係の確立
    • パターナリズムからインフォームド・コンセントへ移行する人間関係
    • 患者・家族を取り込んで協調と信頼関係の医療
  4. 医療従事者の相互連携と協調体制の確立
    • 医師とコ・メディカル間のコミュニケーションの円滑化→物言える雰囲気作り
    • 院内・院外の緊急支援体制と協調(専門医、病・病連携、病・診連携)
  5. 診療記録の整備と活用
    • 診療情報開示に応じうる記載→肝にして要を得た記載、判読できる記載
    • 医療従事者間の情報共有→診療記録の相互チェック・整合性と的確な病状把握
    • 付属資料(紹介状・問診票・説明資料・同意書・検査記録・診断書等)散逸防止
  6. 医学医術の研横と医療従事者に対する教育・研修
    • 医療水準の維持向上→法的研債義務(無知の事故は法的過失)
    • 医療従事者に対する計画的、目的別教育・研修
  7. 安全性の確認と励行
    • 患者の安全確保→基本原則誠実に履行(確認・復唱・声掛け等)
    • 指針、ガイドライン、マニュアル等の励行(遵守の有無が過失判定の目安)
    • 常用医薬品能書の常備・活用→能書無視で事故発生すると過失推定される

医療事故防止の妙手はない。どんな対策を講じても「人は過ちを繰り返す」ものであり事故を絶滅することはできないが、努力で減らすことはできる。

ページ上部へ