看護師の業務としての「診療の補助行為」についての考察

医療従事者の注意義務

子供が何か物を壊したとき、母親が「あなたの不注意で壊したのだから謝りなさい。」などと叱る場面をよく見たり聞いたりします。ところで、ここでいう不注意とは何でしょうか。これを法律的に表現すると、過失ということになります。

人が、他人や他人の物を傷つけた場合に、損害賠償などの責任を負わされるためには、原則として「過失」がなければなりません。「過失」とは、通常「加害者が平均人・一般人に要求される注意を怠り、結果の発生を認識しうるのに認識しないで行為をすること」であるといわれています。ここでいう「平均人・一般人に要求される注意」というのは、その業務に従事する平均的な人に要求される注意をいいます。平均的な医師、平均的な看護職に要求される注意です。また、注意の程度は、その業務の危険性などにより異なります。医療行為については、他人(患者)の生命・身体に危険を及ぼす恐れがありますから、より高度の注意義務が課されています。看護業務についても、医療行為に準じて高度の注意義務が課されていると考えられます。

一般の不法行為責任(民法第709集)

前項で、過失について考えました。ところで、「医療過誤」は医療従事者が損害賠償など何らかの責任を負うという結果になることは、皆さん漠然とながら理解されていると思われます。故意・過失により他人の権利を侵害した人は、その侵害行為により生じた損害を賠償する義務があります(民法第709条)。これを「不法行為」といいます。契約に基づいて発生する「契約責任」とは異なり、加害者と被害者の間に何の契約関係も必要としません。「不法行為」が成立するためには、一般に「故意・過失」「責任能力」「権利侵害(違法性)」咽果関係」「損害」という要件が備わる必要があるといわれています。「過失」については、前項でお話しましたので、その他の言葉の意味についてお話します。

「責任能力」というのは、自分の行為が違法なのか適法なのかを理解する能力(認識能力)をいいます。未成年者と心神喪失者が頁任無能力者とされています。このうち、未成年者については個別に責任能力の有無を判断するとされています(民法第712条)が、一般に10歳から12歳の間に責任能力を有するようになるといわれています。ただ、判例には17歳の場合に責任無能力とした例があり一概には言えません。

「権利侵害」は、「違法性」と考えられています。「違法性」とは、被侵害利益の種類・性質と侵害行為の態様の相関関係であるなどと説明されています。法律的にお話すると大変難しくなりますので、ここでは、詳しい説明は省かせていただきます。簡単にいいますと、前にお話しましたが、医療行為は人の生命・身体(被侵害利益)に何らかの侵害を加えるものです。それが許される、即ち「適法」とされるのは、法律によって許されているからです。法律によって許容された範囲を逸脱して人の生命・身体を侵害した場合「違法」となります。

不法行為が成立するためには、この他に「因果関係」と「損害」が必要です。たとえ「違法」な行為がなされても何の損害(精神的損害も含めて)も発生しなければ、敢えて問題にする必要がないからです。また、仮に「損害」が発生しても、その「損害」が丁違法」な行為によって(因果関係)発生したものではなく、別の原因で発生したものであれば、やはり問題にする必要はありません。(これらは、ニアミス、ヒヤリ・ハット体験といわれているものを含みます。事故の予防対策のために、調査・検討の対象とする必要があることはいうまでもありません。)

使用者責任(民法第715集)

不法行為の中でも特殊なものとして「使用者責任」というものがあります。これは、企業など人を雇用して事業を行っている者などに認められる責任をいいます。企業以外にも病院や検査センターなどの医療系施設がこれに該当します。もちろん、医師などが個人で看護職を雇用して使用している場合にも使用者責任は発生します。また、使用者に代わって事業を監督するもの(代理監督者)にも使用者責任が成立します。例えば、医師が病院に代わって個々の看護職に対して指示を出すとしたら、この医師が代理監督者となります。

「使用者責任」が成立するためには、まず「ある事業のために他人を使用する」ことが必要です。病院に関していえば、「ある事業」とは診療業務、看護業務、検査業務などです。病院の場合は、一般に医療法人である病院が使用者であり、医師や看護師などの医療従事者はこれと雇用契約を締結していますム従って、看護師などの医療従事者は使用される者(「被用者」)です。

次に、「被用者」がその事業の執行(診療補助要務等)について他人に損害を与えることが必要です。

なお、「使用者責任」が成立し、「使用者」が損害賠償をした場合、「使用者」は「被用者」に対して求償権を行使することができるとされています。

共同不法行為責任(民法第719集)

ところで、医師の治療上の不注意と看護師の看護上の不注意が競合して、患者の生命身体に対し損害を与える場合があります。その場合、過失により直接患者に損害を与えた医師と、看護師双方に不法行為が成立します。このように複数の不法行為が競合して成立する場合を「共同不法行為」といいます。「共同不法行為」が成立する場合は、全員が連帯して損害賠償責任を負うことになります。

契約上の責任

患者が病気の治療を受けるため病院に赴き治療を申し込み医師がこれに応じると、そこに患者と病院との間で診療契約が成立します。この場合医師は病院に雇用されている立場ですから患者と医師との間には直接診療契約は成立しないのが通常です。看護職も、同様に患者との間に契約関係はありません。診療契約が成立すると、病院は患者に対して善菅注意義務を持って診療を行う義務があります。通常診療を行うのは医師であり、看護師など医療従事者がこれを補助します。したがって、,病院としては被用者である医師や看護師など医療従事者が患者に不測の損害を与えないよう指揮監督する義務があります。これに対し、医師や看護師などの医療従事者は病院との雇用契約上若しくは就業規則などにより、やはり善菅注意義務を持って診療行為、看護業務などに当たらなければなりません。これに違反して患者に損害を与えると、病院が診療契約違反として債務不履行責任を患者に負担することになります。そして、病院としては、雇用契約違反として当該医師や看護師などの医療従事者に対して雇用契約違反として損害賠償請求する可能性があります。

(業務上)過失致死傷罪(刑法第209条ないし211集)

看護師が、看護業務を行っていた際に不注意で患者の生命身体に損害を与えた場合、刑事責任を追求される可能性があります。適用される法条は死亡の場合は業務上過失致死罪です。傷害の場合は業務上過失致傷罪です。「業務上」とは反復の意思を持って行う場合を指します。したがって、看護師の資格を有していくとも繰り返し看護業務を行うつもりで行った場合は「業務上」ということにります。

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