東京海上日動メディカルサービス株式会社メディカルリスクマネジメント室主任研究員(看護師)青木孝子
診療報酬の改定に伴い、看護職員の配置基準が変わったため、これまでより多くの看護師が新規に採用されることが予測できます。新人の皆さんにとっては一緒にがんばっていく仲間が多く力強く感じられると思います。
さて、皆さんは今、どのような気持ちですか?看護師として働く意気込みと現場に出る期待と不安でいっぱいではないでしょうか。
皆さんを迎える病院、各部署では新人を温かく迎え入れ、一日も早く看護を実践するための力を高めて、看護師として自立してはしいという希望があります。そして、そのための準備を半年くらい前から始めています。
どのような準備がされているかといいますと、院内教育全体の見直しや新人の1年間の教育プラン、また、現場に即した看護技術のデモンストレーションの企画やプリセプターになる先輩看護師の教育・指導などです。
病院によって教育体制は異なりますが、新人が早く現場になれて、自分たちと一緒によりよい看護を実践したいという思いは同じです。
でも、これだけ準備されていても、学校を卒業して、初めて看護師として就職すると、始めのうちはなかなか現場に対応できないでしょう。これまで受けた基礎教育の内容と現実との違いに、自分の技術の未熟さや今まで受けた教育に対しての不満が生じてくることが多くあります。
この事うな新人看護師のリアリティショックを緩和して、職場への順応を促進させるために、「プリセプター制度」というものがあります。これは、新人看護師(プリセプティ)1人に対し、特定の先輩看護師(プリセプター)1人が担当となり、病院のシステムについての説明といったことから、看護師としての基本的な知識や技術の習得などについてサポートする制度です。
多くの病院でこの「プリセプター制度」が導入されていると思いますので、この制度を通じて、「病院がみなさんを迎え入れ、育てるためにどういった準備をし、どのような体制を整えているのか」ということについてお話ししていきます。
プリセプティといえども実際にはチームの一員として看者にあたるのですが、まずはプリセプターと同じ患者さんを受け持ち、日々の看護ケアを通じて様々なことを学んでいきます。段階に応じて課題をクリアしていき、1年後にはスタッフナースとして自立することを目指します。
プリセプターはプリセプティの気持ちに寄り添い、職場に早く馴染めるように支援する立場にあります。プリセプティと同じ日の高さで物事を考え、プリセプティと苦楽を共にする役割を与えられています。プリセプティにとってはとても頼りになる存在です。
もちろんプリセプターだけではありません。交代勤務体制の都合上、プリセプターとプリセプティがいつも一緒のシフトになるとは限りません。そのためチームでプリセプティをサポート出来るように、業務の担当を調整したり情報を共有しています。例えば、できるだけ同じ先輩看護師が連続して担当になったり、プリセプティの現在の状況が分かるように、新たに経験した看護技術のチェック表や、今までの受け持ち患者リスト、プリセプターの指導内容などの情報を共有し活用してチームカンファレンスをするなどしています。そして誰が指導しても内容に差異がでないように注意しています。
でも、もしかしたらみなさんにとっては先輩看護師さんに「見張られている?Uと感じてしまうことがあるかも知れませんが、そうではなくて「見守って貰っているから安心」というように発想を転換して、「プリセプターがいなくても、分からないことや困ったことがあったら誰に聞いてもいいんだ」と考えてください。
もちろんみなさんが所属している部署だけではありません。みなさんが安心して看護が実践でき、早く一人前の看護師になって欲しいと(病棟全体はもとより、看護部全体、病院全体が)思っている、ということ、そして病院として責任を持って新人看護師の教育に関わっているということを是非理解してください。
ここでは新人看護師が患者さんの発した言葉に驚いてしまい、先輩看護師に確認せずに行動してしまったために起こしてしまった事例を紹介します。
患者Aさんは肺腫瘍の患者さんでした。術前に腫瘍の大きさを確認するために造影剤を使用したCTが予定されていました。そのため検査当日の朝食は、検査が終わってから食べること、つまり『遅食』の予定になっていました。とこ.ろがCT撮影の当日です。新人看護師Bさんは患者Aさんの受け持ちではありませんでした。しかし病室の前をたまたま通りがかった際に、Aさんに「朝食がこないぞ!」と強い口調で責められるように言われてしまいました。慌てふためいたBさんは自分でなんとかしなきゃと思ったのでしょう。誰にも何にも聞かずに、配膳室にあったAさんの食事を急いでAさんのところに持って行ってしまいました。もちろん、食事のお盆には『遅食』の表示がされていました。でも慌てていたBさんは気がつかなかったのです。その上、以前受け持った患者さんはCT直前に食事をしていたことを思い出し、今回のAさんの場合も同じだと思い込んでいた、ということでした。
新人看護師は、持っている知識や技術が充分ではありません。また、看者師としての経験も浅いため、何気ない患者さんの一言でもすぐ動揺してしまい、混乱してしまうことが多くあります。この事例でも、過度の緊張や不安から考える余裕がなくなり、判断があいまいなまま行動してしまいました。書いてあるはずの『遅食』という文字にも気付けず、自分の持っている知識だけで判断し、行動してしまったのです。
では、どうしたらよかったのでしょうか。
受け持ちではない患者さんや、状態がよく分からない患者さんから何かを尋ねられた場合は、自分ひとりの判断で行動しないこと。まず「立ち止まる」ことです。そしてその患者さんの受け持ち看護師に報告してください。
この場合も配膳室に直行するのではなく、「確認してきますので少しお待ちください」と患者さんに伝え、プリセプターやその患者さんの受け持ち看護師のもとに行くことが出来ていれば、検査は予定通り行うことが出来たでしょう。また、その経験から新たな知識を学ぶことが出来たはずです。
こうお話しすると、みなさんの中には、先輩看護師に頼ってばかりで自分の「看護」が出来ていないと思う方がいらっしゃるかも知れませんが、そうではありません。自分で考えて「立ち止まる」ことも立派な看護師の役割です。自分で考え、調べた上でも「わからない」「できない」ことがあるのは当たり前のことです。恥ずかしいことではありません。例え笑われても気にしないで、疑問に感じたことは報告して指示を仰いでください。それは患者さんの安全を第一に考えた上での行動です。安心して実践してください。
先ほどもお話ししましたが、現場やはみなさんに一日でも早く自立して貰って、戦力として活躍して欲しいという思いがあります。その思いをプリセプターは肌で感じ、「自分には大きな責任が課せられている」と思っています。
その責任を果たすために「なんとかしてあげたい」という思いが過剰に強くなり、その結果「あれも教えなきゃ」「これも知らせておかないと」と焦ることで、プリセプティに過度な要求をしてしまったり、「何で出来ないの?」「どうしてやらなかったの?」とつい厳しい態度を取ってしまいます。
もちろんそれはプリセプティに対する愛情から発せられるものであることには間違いないのですが、受け手であるプリセプティのみなさんにとってみれば泣きたくなるほど辛く感じることもあるでしょう。プリセプター制度を導入していない職場のみなさんも同じように思うことがあるでしょう。「私は看護師に向いていないのかもしれない」「知らないところで患者さんに嫌な思いをさせてしまっているのかも」「私って嫌われている?」と自分を責めて途方に暮れてしまってはいないでしょうか。
そんな時は決してひとりで何とかしようと思わないでください。頑張り過ぎないでください。先輩、主任、師長、誰でもいいのです。誰かに必ず相談してください。
さて、先輩看護師が側に誰もいなくても、みなさんが実践できる看護があります。
左手に障害のある患者Cさんは、日常生活には殆ど支障はありませんでしたが、左手の握力が弱いため、健側の右腕に患側の左手で湿布を貼ったり、軟膏を塗ったり、ボタンをはめるということが出来ない状態でした0ある日、Cさんは右腕が痛くて困っていました。そこで受け持ち看護師のDさん(3年目)・に「湿布を右腕に貼ってください」と依頼しました0ところがDさんは「ど自分で出来ますね」といって何もせず、すぐ立ち去ってしまいました。しばらくして新人の看護師Eさんが病室に入ってきたので同じように依頼をしてみました。するとEさんは「それは幸いですね。どのように痛いのですか?」「我慢出来そうですか?」「先生に伝えましょうか?」などと尋ねました。Cさんは「ずっと点滴をしていて痛くなったこと」「自分で湿布しょぅと思ったが左手が思うように動かないこと」を話しました0そしてCさんが差し出した冷湿布を見て、Eさんはこう答えました0「状況は分かりました。血液の流れをよくするためには温湿布が効果的だと思います。これは冷湿布ですから、先生に温湿布を処方してもらいましょう。今度は私が先生に声を掛けますね」と言って席を外しましたocさんは看護師Dさんに断られてしまいショックを受けてしまいましたが、新人看護師のEさんが自分の話を聞いてくれ、理解(しようと)してくれたことで気持ちが満たされ、Eさんが席を外した後、笑掛こなっていました。
この話には後日談があります。
Cさんは退院のときに看護師を褒め、感謝していることを伝えました0それを聞いたCさんの家族はたくさんいたベテランの看護師さん達の顔を思い浮かべたそうですが、Cさんの口から出た名前は、他の誰でもなく、新人看護師のEさんでした。
「患者の自立」「相手の立場に立つ」とよくいいます。
まず、「患者」が「自立」するとはどういうことなのでしょうか。
ここでいう「自立」とは、何もかも一人で出来るようになること、ではありません。自分で出来ることと出来ないことを判断し、出来ないことをするために必要な支援を求めること、とも考えられるのではないでしょうか。
そう考えれば、「患者が自立するために」援助する立場にある看護師であったのならば、患者Cさんの訴えが単なる「甘え」や「わがまま」なのか、そうではなく「出来ないから支援してほしい」と言っているのかどうか、看護師のDさんはきちんと判断する必要があったでしょう。それが「相手の立場に立って看護する」ということです。
まず相手を受け入れて相手の立場を感じたら、次に看護師として科学的根拠に基づいて「何をどうするべきか」を考えます。その上で必要な看護をする、それが「相手の立場に立つ」ということではないでしょうか。
さきほどの事例では、新人看護師EさんはなぜCさんが訴えてきたのか、まずその意味を考えました。そこで訴えの原因である「痛み」は「医師に報告したほうがいい」のか、「看護ケアで緩和できる」のか、Cさんのニーズを把握しながら考え、そして「温湿布の処方依頼をする」という判断をしました。
これだけでも充分な「看護」が提供できたと思いませんか?
更に一歩進んで、温湿布が届くまでの間に温タオルで腕を嘘めたり、Cさんと話をしながらマッサージを行うことで、よりよい関係が築けたかも知れませんね。
まずは、患者さんを受け入れて話をよく聞くことです。そこから、患者さんにとって何が必要かが見えてきます。
知識や技術を積み重ねていくのも大切ですが、それと同じように、多くの患者さんの一人ひとりの訴えに耳を傾けることで看護師としても人間としても成長して欲しいと思っています。
東京海上日動メディカルサービス株式会社メディカルリスクマネジメント室主任研究員(看護師)本山和子
私が看護師として初めて配属された部署は手術室でした。配属場所がわかったとき、看護学校の担任の先生に「手術室なんて自信がありません0他の職場を探します。」と泣きついたところ、「だまされたと患って3年はやってみたら0」と、いとも簡単に転職案は却下されました。
これが私と手術室の出会いでしたが、さあ、どうでしょう0なんと、手術室一筋、約20年の歳月が流れてしまいました。経験が豊富な分、数多くの「ヒヤリ・ハット」を経験している私ですが、ここでは新人の頃に経験した失敗談をど紹介します。私はこの経験から「個人だけでなく、チームでの取り組み」が大切であることを学びましたので、みなさまにお伝えしたいと思います。
私が手術室に配属されて6カ月頃のことです。私は大腿骨骨折手術の直接介助を担当することになりました。手術が始まり、この手術で一番重要な骨を削るための「ドリル」を使用する場面となりました。しかし、なんと「ドリル」が全く動きません。いろいろ確認しましたが、内部のモーターが動いていないので、結局、故障と判断され手術は一時中断されました0そして代替品が届き、手術が再開されるまで約3時間かかりました。
私は「手術が始まる前に、ドリルの作動確認をしていれば、こんな事態にはならずにすんだのに。」という後悔と、患者さんはじめ、執刀医の先生や手術に関ゎっているすべてのスタッフに迷惑をかけてしまったことで、いたたまれない気持ちでいっぱいでした。そんな状況のなか、主任看護師がやってきて、担当医師に「今回の不手際は、私の管理不足です。申し訳ありませんでした。」と謝罪し、ど家族への状況報告などの方針を担当医師と相談し対応をしてくださいました。
この主任の関わりのおかげで、手術室内の雰囲気も険悪にならず手術は無事終了しました。また、ど家族へも適切な対応をしてくださったおかげで、患者さんが病棟へ帰られるときには、ど家族からお礼の言葉までいただきました。
手術終了後、あらためて主任に状況を報告しました。そして「今回は、私の確認不足のためにど迷惑をかけてすみません。手術が始まる前には必ず作動確認するように徹底します。」と伝えました。そうすると主任はこう言いました。
「確かに、あなたの手術前の確認不足も1つの原因だけど、それだけじゃないのよ。故障した機械が使用されないように、毎回きちんと作動確認をした後、滅菌しなくてはいけないし。
いままでは、どの場面でだれがどうやって確認するがということをきちんと決めていなかったし、それに手術が始まる前に、先生とも確認しなくてはだめかなと思って。今回のことは、本当にびっくりしたけど、こういった替わりがない機械の管理を見直すいい機会になったなと思って。患者さんやど家族にはど迷惑をかけてしまったけど・・。同じ失敗を繰り返さないためにも私はこの原因を、あなたの確認不足だけで済ませてはいけないと本当に思ったのよ。」
私が新人の頃は、医療現場ではインシデント報告等のシステムはまだまだ確立されておらず、「失敗は個人の責任」というような風潮でした。今回の失敗も「私さえ確認していれば」とずっと自分を責めていたのですから。しかし、主任は、この当時から’、失敗した行為や結果だけにとらわれず、組織や管理体制で改善できることはないかという視点を持っていました。そして、その結果出された対応策を、手術に関わるみんなが共有することが大切であると考えていたのです。
このようなすぼらしい先輩のご指導を受けながら、私は手術室看護のすぼらしさを実感していきました。手術室は、外科医、麻酔医、看護師、臨床工学技士など、様々な職種のメンバーが関わり手術を進めていきます。限られた時間の中で、それぞれが自分の役割を自覚し、実施していくことで手術は円滑に行われます。手術室で問題が生じたときは、問題が生じたところだけにスポットをあてるのではなく、手術に関わるメンバー全員で検討し、対応策を考えることが非常に大切です。私が今回ど紹介した失敗談は、まさにこのことを学べた貴重な体験でした。
みなさんも、これから様々な体験を積まれていくことと思います。「看護師になって良かったな」という体験もあれば、今回ど紹介したような失敗もあるでしょう。でも、失敗からの学びもたくさんあります。
どうか、その学びを無駄にせず、これからも自分の目標に向かって頑張ってください。