本稿では、看護の臨地実習における実習記録等の取り扱いに関して「個人情報」「プライバシー」両面から検討します。
1.臨地実習の実際
(1)実習の実際は、各学校や受入施設によってある程度異なると思われますが、監督官庁である厚生労働省による指導や、それらを指針とした看護学の教育ガイダンス等により、基本的な事項は統一されています。
実習においては、実習生に対して看護記録を作成させます。過去には、実習生に実際に看護師が作成する看護記録に記載させていたようです。しかし、医療事故等の際看護記録も重要な証拠として採用されるのが通例であり、これを実習生に作成させることに問題があるため現在は正式の看護記録に記載させる例はないと思われます。したがって、現在では看護記録に相当する実習記録を作成させるのが通例です。『最新看護学教育ガイダンス臨地実習編』(医歯薬出版株式会社)でも「学生は実習中に看護記録を書くが、あくまでも学内所定の用紙を用いるべきであって、学習施設で看護婦が記録する看護記録そのものに、たとえサインであっても記入させてはならない」(94頁)としています。
実習記録については、患者の実名は記載しないでアルファベットなどの記号を用いるようにし患者が特定されないようにしています。また、実習中は受入施設外への持ち出しを禁止し情報の漏洩を防いでいます。ただ、実習の終了後は学校に提出する必要もあり受入施設外への持ち出しは認めています。
以上は、現在では一般的かと思われますが必ずしも全国的に統一されてはいないようです。実習の途中でも自由に実習記録を受入施設外に持ち出せるところもあるようです。
(2)ある看護学校で実際に使用されている実習記録を見ると、まず、氏名、年齢、性別、受持ち時間、診断名、手術名、全体像、看護上の問題、看護目標、実施内容、評価の欄のある記録用紙があり、それに続けて受け持ち病者の理解、受け持ち病者の情報と問題、病態関連図などの記録用紙が一体となって実習記録を構成しています。
実際の実習記録では、相当詳細に記録が採られています。既往歴、家族構成、職業、嗜好なども詳細に記載されています。ところで、この実習記録では氏名のみが記号で記載されており、それ以外の情報は全て省略や記号化なしに記載されています。
しかしながら、氏名のみ記号化すれば問題がないわけではありません。既に見たように「個人情報」には他の情報と容易に照合でき、それにより個人を特定できる情報も含まれるのです。これはプライバシーについても同じことが言えます。情報の一部を記号化すれば匿名化できたと考えるのは早計です。記号化は一応のものでしかないということを肝に銘ずるべきです。
2.実習生に、患者の個人情報を取り扱わせることの必要性
形式的に見ると、実習生は未だ資格を持たず本来であれば患者に対して直接診療の補助や看護を行うことは法的に認められません。しかし、看護実習生は近い将来看護師としての資格を取得し専門家として業務を行うことを予定している者です。そして、専門家としてのレベルで業務を行うためには、いわゆる実習は避けて通れない途です。実習生にどこまで実際に診療の補助、看護を行わせるかは大変難しい問題で現時点では明確な基準はありません。その中で、看護記録の記入方法を学ぶことは看護師となろうとする者にとって必要不可欠の事柄です。看護の実習教育から、これをなくすことは出来ません。
問題なのは、実習生に実習記録の作成をさせるかどうかではなく、如何に適正に管理するかということなのです。個人情報保護法やプライバシーの問題があるからといって、これらに萎縮してはなりません。受入施設、学校そして指導者である医師、看護師、教員らが協力して適正妥当な取り扱いをし、実習生を指導監督するよう努めれば個人情報の漏洩や、プライバシーの侵害から患者を守ることは決して大変なことではありません。
3.看護記録
医療機関が法的に作成を義務付けられている記録類には、診療録(医師法24条など)、助産録(保助看法42条)などがあります。看護記録自体は、法的に義務付けはされていませんが診療録の一部を構成、若しくは診療録と相互に補完するものとして重要なものです。もちろん、看護の重要性を考えると、看護記録は単に診療録の補助的なものではないと考えるべきでしょう。なお、「個人情報」「プライバシー」を検討するうえで法的に義務付けられた記録に記載された情報か否かは関係ありません。
なお、最近では「電子カルテ」が作成されるようになり、看護録もいずれ電子化されると予測されます。そうなると、簡単な操作でまとまった個人情報を容易に入手することができるようになるでしょう。
受入施設が保有する個人情報を実習生に開示する場合に、個人情報保護法の適用が問題となります。
これに対し実習生自身が患者から当該患者の個人情報を収集する場合は、同法の適用は原則としてありません。